コーヒーの本ーーそれも本当によく出来た本を読んでいるとーー知識というのは言葉をガジェットのように所有するだけでまったく不十分だと、痛い思いをさせられるときがあります。自分だけの歴史観、自分だけの抽出理論、自分だけの焙煎理論。。言葉はいくらでも新しくなりますが、言葉と人とのあるべき関係性とは、本来普遍的なものです。コーヒーはまた、その出自自体がオブスキュアなもので、明確さを持って近づくほど本質的に裏切ってしまうというところがあるような気がしてなりません。
たとえば、ロブスタの起源。
ジャン=バティスト・ルイ・ピエール(フランス)が発見したという説だと、ウガンダが起源だと言われることがあります。また一方でエミール・ローラン(ベルギー)の発見が最初だという説だと、コンゴと言われます。日本でも大きな二つのコーヒー協会が、それぞれカネフォラの起源を一方では「ウガンダ」と言い、一方では「コンゴ」と主張していますがこれは一体、どういうことでしょうか?
種明かしをすればとても簡単、ウガンダ説の方は、1897年にアルブレヒト・フレーナー(ドイツ)という人が、ジャン=バティスト・ルイ・ピエールの持ち帰ってきた標本の中からロブスタを発見したのです。ウガンダ説は、本当は1895年にエミール・ローランが見つけたコンゴより先に、それ以前のものとされる標本から見つけたものをたよりに、ウガンダで発見されていたのだという主張から来るそうです。
『コーヒー「こつ」の科学』では、ロブスタの起源をたんに「ビクトリア湖の西」と言っています。
このあまりの清々しさに、自分は笑いすら覚えます。