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カフェ・バッハと私

Posted: 2019.12.22 Category: ブログ

カフェ・バッハと私イメージ1

私がカフェ・バッハのトレセンの門をくぐったのは、而立の時、則ち三十歳の時でした。色んな事を忘れてしまう店主ですが、当時恋人と付き合いはじめてから一年ほどたったあとの事でしたので、たぶん間違いないと思います。(その方は現在の奥さんです)

岐阜県の中の、さらに田舎と呼べる場所の若者が東京の南千住に訪れる事になった理由はいくつかありますが、もっとも大きなきっかけは美濃加茂のコクウ珈琲さんにすすめられたからです。のちの奥さんのすすめでコクウ珈琲さんからコーヒーを学ぼうとした私は、「君はバッハに行った方がいい」と言われました。自分の人生を振り返ったとき、他人からもらったアドバイスでそれより最上のものはなかったように思います。

カフェ・バッハのトレセンには、変な人ばかりいました。(少なくとも当時の私にはそう思えました)。一様に共通していたのが、皆、主宰の氏をおどろくほど崇拝していた事です。私は、田口さんの事はよくわかりませんでした。ただ、田口さんの文章は好きでした。しかし肝心のコーヒーの事もよくわかりませんでしたし、(ブラックで飲んだ事もなかったほどです)その場の空気は、お世辞にもあまり気持ちが良いと言えるものではありませんでした。

当時(いまもですが)私は壁にやたらともたれかかる癖があり、起立して敬虔な参加者たちが焙煎のデモンストレーションをする際、場違いにも群れから完全に離れて後ろ手を組み、壁にもたれて様子を見ていました。いつも、ぼおっと見ていました。人によっては、せせら笑っているように見えたかもしれません。

あるとき首に手がかかったのを見ておやと思うと、主宰の氏が横から肩に手を回していました。

「俺を誰だと思っているんだ?」

私は、無表情でそれを見返しました。しかし、田口氏は真顔でした。

君は俺の事をなんとも思っていないだろ。俺は、そういう奴は嫌いじゃないんだ。学校だったらたぶん張り倒しているけども、ここはそういう場所じゃない。ひとの振舞には「態度」と「あり様」がある。態度は制度が決めるし、学校が教育するけども、「あり様」は自己本質なんだ。俺は君の「あり様」は、まあ、好きだよ。

御大はそんな事を言って、その後目も合わせずにその場を去られたように思います。

それからというもの、私の「あり様」はおそらくあまり変わりませんでしたが、「態度として」彼の言うことは一字一句漏らさないよう、気持ちを込めてつよくメモを取りました。謁見している時間にとった速記はあまりに抽象的なことも多く、いまだに考える事も多いですが、それを見返してコーヒーを飲み返した日々がおそらく「本質」と相まって、コーヒーをめぐる現在の自分のほとんどを作ったように思います。

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