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従順さのことなど

Posted: 2022.12.14 Category: ブログ

従順さのことなどイメージ1

店主です。

「食べものの好き嫌いがあまりない」、というのが自分のある程度の自己紹介ですが、それはもしかしたら幼少期の、「食べ残しは良くない」という訓戒への「従順さ」から来ているのかもしれない----なんとなくそう思ったのが、最近あった出来事です。

どうしてそんなことを思ったかというと、ジョエル・ロブションに関するまとまった文章に目を通していたからです。わたしはいくつかのことばに出会いながら、ジョエル・ロブションという、ある分野においてあきらかに強すぎる意味を持っている人物に関する、何かの覚書を見つめていました。そして進行中の読書にある発言に対して、(少し目を開いて)気になる箇所を見つけるのです。いくつかのことばの連なりの中で、著者によって導かれる自伝の人物の、「人がくちに入れるものに関わる商売ほど、いわゆる学歴が関係ない分野はない」、というようなつぶやきを拾います。一介の読み手にとってさらりと過ぎたその箇所は、ずっとこころに残っており、たとえばそれは自分があまりまともな教育を受けていないからだとか、そういうこともあるかと思いますが、なんだかよくわからない説得力を覚えるのです。

一般的に、学歴が関係ないと叫ばれる職業分野はいくつかあると思います。思ったより、いくつかあると思います。同時に、学歴が関係ないと呼ばれている分野でこそ、見えない形でつよくその関係性が作用していたりするようなこともあるでしょう。しかし、20世紀最高の料理家などと呼ばれる(こともある)彼の「言い方」は、本当に微妙なところを突いている気がしました。それは、彼の仕事の分野が、少なからず自分が関わりを持っている分野だからでしょうか。「人がくちに入れるものに関わる商売ほど、いわゆる学歴が関係ない分野はない」。わたしはしばらくぼんやりと、現実にある出来事と対比しながら、そのことを考えていました。

学歴というのがひとつの生き方なのであれば、学歴が関係ないというのは、物事に対して「従順でなくても良い」とか、そういう性質のことなのでしょうか。なにかそういう性質を持った人の擁護のように、わたしには思えたのです。しかし、そこでわたしは、おや、と思います。「従順でなくても良い」という生き方は、ただちに「他者に対して従順でなくても良い」だとか、そういうことになるのでしょうか。もしそうであれば、(コーヒー屋さんに限らず)、世の中の「口に入れるもので商売しているひとたち」の、ほとんどが成功している気がします。あるいは、ある程度まではうまくいっている気もします。しかし、現実にはあまりそうとも思えません。これはどうしてでしょうか。自身の「こうあるべき」というのは、何に対しての従順なのでしょうか。わたしは、しばらく考えていました。それは何かとても危険なことに思えます。自身の「こうあるべき」という物差しは、何かとても危険なものに思えます。(一見複雑に思えますが)、そのことだけで出来事を捉えるのが危険な理由は、本来とてもシンプルなものです。物事は、人間の意思程度にすべてを負うほど他愛のないものではなく、うまく行くときはうまくいくし、うまく行かないときは徹頭徹尾うまくいかないからです。

食の分野で(ある形で)頂点を極めた料理家の言うことはおそらくより過激なもので、それに関してはこのことばの前後の文脈であったり、彼の経歴を紐解けば、少しだけわかることがあります。清濁併せ飲んだ彼(ロブション氏)の経歴を紐解けば、なんとなくわかることがあります。「何ものに対しても従順でなくて良い」。それがおそらく、彼の本意です。「何ものに対しても従順でなくて良い」というのは、つまり、「自分自身にすら従順でなくても良いし、そうあるべき」というふうにわたしは受け取めました。だからおそらく、少々とまどったのでしょう。これは、現実にさまざまなひとを見ている上にあるとまどいかもしれません。あるいは、そうではないのかもしれません。もっと個人的なことかもしれません。ただ、「自分自身にすら従順でなくても良いし、そうあるべき」ということは、この分野の商売におけるなにかの真理です。そしてある意味で、それが一番難しいことなのです。それがいっとう難しいことであるのに、この難しさを打ち倒さなければ、先に進めない重要な局面というものがあるので、わたしは少々うろたえてしまいます。ひとが口に入れるものに携わる仕事には、そういう場面が、とても複雑な形をとりながらいくつかあると思うのです。

わたしはいま、それを誰かに言いたい気持ちです。なぜか誰かに、とても小さく言いたい気持ちです。

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